VENUS / POLARIS
白銀の女神は北の空に輝く - 90年の時空を超えた現代のヨーロピアンスタイル6-1/2

テナートロンボーンのマウスピースにおいて6-1/2というサイズはデファクトスタンダードとして広く愛用されています。カップ直径がちょうど1インチ(φ25.4mm)というのも単なる偶然とは思えません。そしてたしかにこのくらいの口径がフィットする方が極めて多いのです。VENUS/POLARISの生みの親であり、くらしき作陽大学で教鞭を執られる白濱俊宏さんもそのお一人です。

2009年2月、willie'sデビューの地である岡山トロンボーンフェスティバルで初めてお会いして以来、多くのインプレッションやご意見、コンセプトやアイデア、情報や資料などを提供してくださいました。新しいものはすべて最初に自分で試してみる、この姿勢、探究心が白濱さんのプレイスタイルを支えています。まず最初にサックバット(トロンボーンの前身といわれる古楽器)用のマウスピースを依頼されたのが2009年8月。そして2010年1月、ついにシグネチャーモデルへのコンセプトが固まりました。

  • 6-1/2サイズの太管テナートロンボーン用。ただしカップ深さにバリエーションを持たせる
  • 11C, 7C, 6-1/2サイズのアルトトロンボーン&細管テナートロンボーン用
  • これらはすべてヨーロピアンスタイルでまとめる

まず着手したのが太管テナー用でした。ドイツやフランスの多くのマウスピースを参考にしながらも、あくまで日本人が吹きやすく楽しく音楽できるものとして設計を進めていきました。ここにも多くの学生さんを指導されている白濱さんのこだわりがあり、こんな面白いコンセプトも伝えられました。

  • 中高生に加え、社会人いわゆる週一プレイヤーでも良い音が出せる

第一次試作完成は2010年1月末。およそ2週間で製作したこのマウスピースは残念ながら不採用でした。予定よりカップが大きくなってしまっていたのです。原因は工具の不調でした。このためスタンダードラインをはじめ既存モデルの製作も一時ストップせざるを得ず、復旧したのは3月にさしかかるころでした。このため第二次試作の完成は大いにずれ込み2010年6月のこととなってしまいました。幸いにも第二次試作はかなりの好評で、リム、カップなど内部に関してはこの時点でほぼ完成となりましたが、実はここからが本当の試作なのでした。

さて6-1/2ALがスタンダードとはいえ、その基本設計は1920年代、今から約90年前のものです。この時代のオーケストラでは現在の中細管(.525"ボア)のものが普通に使われていました。その後アメリカを中心にシンフォニックトロンボーンは太管(.547"ボア)が主流となり、音量指向も手伝って大きく太く重い楽器が主流となっていきます。この傾向は1980年代のセイヤーバルブの登場により一気に加速します。その流れに伴いマウスピースも深めの音色を出しやすい深いカップが主流となっていきました。
ところが従来ののマウスピースラインナップでは、深いカップを選択すると必然的にカップ直径も大きなものにならざるを得ず、奏者に必要以上の体力を要求することになってしまっていました。この現象は特にアメリカで顕著であり、ヘビーウェイトのマウスピースが各社から発売され日本でも一時大ブームとなりましたが、ヨーロッパ(特にフランス)においては、この間もまったく変わらず6-1/2サイズのマウスピースが使用されていたのは興味深いところです。

白濱さんとwillie'sはここに着目し、あくまで6-1/2サイズのリムにこだわり、現代のニーズにマッチした次世代6-1/2を開発することを目標と決めました。そのために5種類の深さのカップを製作しテストしたのです。ポイントは『一番浅いカップが6-1/2AL相当』というところです。できあがった試作品はくらしき作陽大学の学生さんを始め、プロアマ合わせて30名以上のプレイヤーに試奏していただきました。この際5種類のカップから気に入った2つのカップを選んでいただいたところ、見事にすべてのカップに票が分かれました。これによってこの5種類はすべて製品化することが決まったのです。白濱さんがベストバランスと判断した☆(スター)を中心に、深い方がD(Deep)VD(Very Deep)浅い方がS(Shallow)VS(Very Shallow)と名付けられました。ここまでが第三次試作です。

内部は決まったので残すところはボディチューニングです。従来のwillie'sマウスピースと一線を画すVENUS/POLARISのボディですが、当初白濱さんはPOLARISタイプのみの予定でした。VENUSに関しては完全にwillie'sからの提案です。つまりこの新型マウスピースに名器emperadorのエッセンスを注入したかったのです。カップからネック部にかけての曲線がそうです。おわかりになりますでしょうか?

ボディには2009年8月に製作したサックバット用マウスピースで用いた細かい凹凸(VENUS Rib/女神のあばらと名付けられました)リム外周とネック部に施してみました。VENUS Ribには音量と響きを充実させる効果があります。このボディが極めて高い評価を得たため、POLARISタイプの試作機にもVENUS Ribを追加しました。ネック部のデザインも4種類試作しました。中にはアメリカG社のタイプもあります。面白いことにこれがG社のマウスピースにとてもよく似た特性となり、改めてボディデザインの重要性を再確認したものです。最終的に球面タイプが採用されました。音色とコントロール性、そして何よりパワーをため込むかのような吹奏感が評価されました。
こうして出来上がった2つのボディにはそれぞれVENUS/POLARISという星にちなんだ名前が付けられました。VENUSは見た目のエレガントさから。POLARISは天空中で常に一点にとどまり(厳密には動いているんですけどね)古来より旅人の指標となってきた北極星にちなんで、道に迷った多くのトロンボーン奏者の道しるべとなるように…との白濱さんの想いが込められました。

さらに特筆すべきことは、これらのテストを実施するための評価用楽器として、白濱さんがかねてから愛用のフランスCourtois社のトロンボーンに加え、アメリカEdwards社の T396-A(通称:アレッシホーン)が採用されたことです。ニューヨーク・フィルハーモニック首席奏者ジョセフ・アレッシ氏の監修によるこのトロンボーンは、まったく新しいテクノロジーをふんだんに採用したEdwardsの意欲作。日本上陸からたった1年間であっという間に日本のオーケストラプレイヤーに浸透しました。そしてVENUS/POLARISはこの最新鋭モデルとのマッチングを想定してテストを繰り返しリリースされた、おそらく世界初のマウスピースなのです。

先行発売以来、多くのアレッシホーンユーザーから「ハーモニックピラーを1本も挿さない状態が最高にナチュラルなバランス」という評価を受けました。現代アメリカントロンボーンの最先鋒としてパワフルでマッチョなサウンドを身上としてきたEdwardsですが、このアレッシホーンが意外なことにヨーロピアンテイストをも纏っている楽器であることがVENUS/POLARISの開発を通じて明らかになったのでした。

フレンチトロンボーンの代表格Courtoisとのマッチングも、もちろん最高です。歴史上独特の発展を遂げてきたフランスのトロンボーンは、以前よりアメリカ製マウスピースとの相性が合いにくく「CourtoisのトロンボーンはCourtoisのマウスピース以外を受け付けない」と言われてきました。VENUS/POLARISのリリースはこのCourtoisユーザーの選択肢を広げることに貢献します。これらは冒頭でご紹介したように「すべてをヨーロピアンテイストにまとめる」というコンセプトの賜物です。

テナートロンボーン用でひと通りのテストを繰り返したため、アルトトロンボーン用は比較的スムーズに開発が進みました。テナー用とは異なり、まずVENUSをベースにアルト専用のリムを設計。これを11C、7C、6-1/2サイズに展開する手法を用いました。7CサイズのものにはMUKAI IIのテクノロジーを取り入れてあります。それぞれVENUS AP-S(11Cサイズ)VENUS AP-M(7Cサイズ)VENUS AP-L(6-1/2サイズ)と命名されました。これでサックバット用から始まった一連の白濱さんモデル全ラインナップが完成しました。最初に構想を打ち明けられてから1年が経過していました。

6-1/2ALが不朽の名作であることは疑いようがありません。90年にわたって徐々にスタンダードとしてのポジションを確立していったその存在感はものすごいものです。しかし90年という歳月は人も世界も価値観も大きく変えてしまいます。現代にふさわしい6-1/2はこうやって誕生しました。そしてこれからスタンダードとして認められていくかどうかは、現代のプレイヤーである皆さまが決めていくものでしょう。

そして90年後、西暦2100年にまた新たな6-1/2が生まれるかもしれません。その間VENUS/POLARISは、常に北の空に輝いています。


※写真左:VENUS 右:POLARIS
※写真協力:ジョイブラス


モデル
太管
細管
カップ直径 (mm)
ドリル直径 (mm)
バックボア形状
税込価格/金メッキ仕上げ
税込価格/銀メッキ仕上げ
VENUS
VD
 
φ25.4
φ7.0
カスタム
¥30,450
¥24,150
D
S
VS
POLARIS
VD
D
S
VS
VENUS AP-
S
φ24.7
φ6.0
M
φ24.9
L
φ25.4
φ6.1

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